滬九直通車と呼ばれる、上海と香港の九龍紅磡駅との間を結ぶ列車の乗車券です。
中国では高速列車網が発達していますが、国土が広いからか夜行列車もそれなりに活躍しており(というか、寝台車を連結した高速列車もあります。)、この列車も上海から香港まで約1991kmを18時間40分程度で結びます。
1991kmというと、東京~西鹿児島で日豊本線経由で1574kmなのでこれよりも400km程度長いですね。
きっぷはインターネット予約もありますが、2015年当時は中国の身分証明書番号が必要で外国人の観光利用でネット予約はほぼ利用不可でした。(いまはパスポートの番号で登録できます。)
そこで上海のエージェントに依頼して確保してもらい、乗車当日に現地できっぷを引き取る形になりました。
きっぷは高級軟臥車と呼ばれる、最上級の個室寝台車で、2人定員。
これ以外にA寝台にあたる軟臥車とB寝台にあたる硬臥車があります。軟臥車は4人用の個室寝台で、ちょうど今は亡きカルテットの豪華版。一方硬臥車は3段式寝台ですが、車体が大きいため日本の3段寝台よりはまだゆとりがあります。
お値段の761人民元は15000円ほどです。
「城際列車」としてのZ99次
上海でエージェントからきっぷを受け取って早速上海駅へ。
流石に活気があります。列車内の食事情はよくわからないので、近くの便利店(いわゆるコンビニ)でお菓子類など買い込みます。まさか没収はされまい。
行き先を見ると、なかなかの長距離列車群です。左端が列車番号で、先頭の英字が列車種別になります。具体的には
・G:高速鉄道(日本だと新幹線)
・Z:直達特快列車(夜出て朝着く直行列車、日本はこの手の列車はありません。)
・T:特快列車(日本だと特急)
・K:快速列車(日本だと急行)
ちなみに英字がついていないと普快列車(各駅停車)となります。
今回乗車したZ99は、直達特快に位置付けられ、上海と終点九龍との間の停車駅は金華、株洲、広州東のわずか3駅。
ところで、写真を見ればわかりますが、Z99が2つありますよね。
これは同一の列車で広州東駅行きと香港九龍行きを併結して運行しているということです。途中の広州東駅で広州東どまりの車両を切り離します。で、広州東行きは中国国内の国内列車。一方、香港九龍は上海で出国審査を受け、九龍で入国審査を受けないといけません。つまり列車内はどの国にも属していない状態です。このため、城際列車と呼ばれます。(香港も中国の一部ではありますので、国際列車ではありません。ただし、出入国が必要という非常に面倒くさい状態です。)
このため、広州東行きと九龍行きとの間は行き来はできません。
待合室も広州東と九龍行きでは別々。待合室は出国審査を兼ねており、流石に撮影の類は厳禁。出国審査を受けたあと、おとなしく改札開始を待ちます。
改札開始したあと、いよいよ列車とご対面。
いかにも長距離列車の発車ホームらしい、広いホームに25T型客車が停車していました。
サボも「上海-九龍」となっていて、いよいよ旅行ムードが高まります。
早速車内に入り、個室へ。
RW19T型車両の車内は寝台特急「北斗星」のロイヤルに、ベッドを2段ベッドにした形です。ソファとテーブルがあり、トイレと洗面所も備え付けられています。
ただし、注意点としては中国の個室寝台は部屋売りではなく、人売りなので、一人で乗車する場合は相室になることも。
この日は自分ひとりになりました。
荷物を整えているうちに発車。いつの間にはホームには人はいなくなっていました。
上記写真の前のほうにゲートらしきものがありますが、これが広州東行きと九龍行きを分ける境界だったようです。
乗り心地は最高。ゆったり睡眠。
発車後、女性車掌が巡回してきっぷを拝見。
きっぷを出すと回収して代わりにボーディングカードを渡されます
ついでにクローゼットの建付けが悪く、ドアが開かないため、車掌に相談すると、なんとどこからかパールを持ってきて無理やり開けてしまいました(驚)
なんか閉めるとまた開かなさそうなので、とりあえず半開き状態で。
上海を発車してしばらくは上海市街および郊外を走ります。
高層マンションがなくなって平野が広がると、暗闇が徐々に広がり、夜へ。
ならば、と食堂車へ向かいます。
食堂車は残念ながら撮影は止められましたので写真はなし。
ただ、ビールを頼む食堂の一角にあるバーカウンターに置かれたビールをそのまま持ってきて渡されることに。・・・冷えてないし。
料理は当然中華料理。一品あたり40~60元と、町中に比べると高い気がしますが、食堂車で食べるとおいしく感じるのは気のせいでしょうか。
あと冷えていないビールと中華って案外あう・・・やっぱり日本人は冷えたビールが飲みたいです。。。
部屋に戻るとすっかり真っ暗。
しばらくくつろいでいると、車内販売の売り子が。
日本の車内販売みたいにいろいろなものを売っているのではなく、カートに大きな鍋を載せてやってきます。
一つ頼むと、カップを取り出して鍋から麺をよそって10元ナリ。
なんとなくにゅうめんのように見え、緑は香菜っぽい。辛そうにもみえましたが意外とあっさりした風味で意外と食べやすい。
しかし、さすが食に妥協はしないですね。。。
部屋にはコンセントもあるため、充電しながら軽くネットも。
このあたりは夜行列車あるあるですね。
気が付くと寝入ってしまいましたが、列車が止まっているのに気づいて窓のカーテンを開けると株洲駅に停車中。夜行列車ならではの光景です。ここで進行方向が代わりました。
しかし、この25T型客車は、乗り心地が非常にすばらしいですね。ややふわふわする感じはするもののベッド幅80cmと十分広く、運転も非常に丁寧で流石に在来線最上位列車だけあります。
最高速度は160km/h。
方向が変わったあとを見届けたあと再度眠りにつきました。
ゆったりとした朝の始まり。
朝、カーテンの隙間から明るい光が見えたので起きてみると、何やら湖のほとりを走行中。
スケールの大きさはさすがに大陸だけあります。
食堂車に向かって朝から点心のビールの朝食。ビールが冷えていないのももう慣れました(笑)
部屋に戻って明るくなった車窓をぼーっと見ていると、寝台列車の夜明けを実感できます。もっともこの時点では終点九龍までは4時間以上あり、このゆったりした時間の流れが寝台列車独特の感覚といえるでしょうか。
日本だとかろうじて下りのサンライズ出雲が該当するでしょうか。運転日は少ないですが、サンライズ出雲91号ならば出雲市着が昼過ぎに到着するのでうってつけかもしれません。ただし、ノビノビ座席は避けたほうがいいです。
気が付くと広東省に入り、広州東駅が近づいてきました。
同時に線路が増え、複々線に。
広州東を過ぎてしばらくすると、横にCRH、中国版新幹線ともいう中国高速鉄道が併走します。中国高速鉄道は最高時速300km、一方こちらは最高160km/h なので速度差はいかんともしがたく、追い抜いていきます。
しかし、中国高速鉄道はは停車駅が多く、こちらは広州東からは終点九龍まではノンストップなので、Z99はCRHに追い抜かれるものの、CRHが停車している間にZ99が追い抜いていくというウサギとカメのおいかけっこのような併走劇が見られます。
新幹線との並走というのはなかなか見られるものではなく、ずっと興味深く見ていました。
広州からはずっと複々線で中国高速鉄道とのおいかけっこが続きましたが、結局互角のまま深圳駅に到着。深圳駅にはCRHが少し先着しましたが、Z99列車は深圳駅は華麗に通過。
深圳を過ぎると川を渡ると香港島に入ります。
ゆっくりと羅湖駅を通過するといよいよ香港MRTの東鉄線に入ります。
東鉄線内はMRTの高頻度運転と、追い抜きができる駅がないこともあってかなりのノロノロ運転を強いられます。
そのまま終点の九龍駅に到着。MRTの紅磡駅と同一駅ですが、ホームが異なり下車するとすぐに入国審査を受けることになります。
もっとも時期的なものもあるのか香港への入国審査はかなり簡単なもの。
パスポートチェックだけされると、特に何も質問もなくすんなりイミグレーションを通過。
到着して20分後にはもう香港の街中に繰り出すことが可能。
このあたりは政治的な思惑もからんでいて常にそんな状態であるとは思えないのですが、2015年当時はそこまで日本と中国、そして香港とはそこまで緊張状態ではなく、香港も中国本土もかなりおおらかな感じでした。
今は中国はビザを取得しないと行くことができず、政治的に対立していることもあり手軽に旅行というわけにもいきませんが、中国の鉄道自体は興味深いものがあるんで機会があればまた行ってみたいです。
ただ、2018年の中国高速鉄道が香港西まで開通すると乗客が減少し、コロナ渦で運転休止。どうやら香港と中国本土の輸送は高速鉄道に一本化するようで、2022にこのZ99次/Z100次含めて在来線の中国本土と香港との直通列車は廃止の方針が示されました。
この特別感あふれるZ99次の旅もおそらく過去帳入りしそうです。
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